ここ、旧村松町(平成18年に五泉(ごせん)市と合併)は、新潟市から内陸に30㎞程の所に位置し、 三方を1000m級の山に囲まれ、平坦な一方は新潟平野へと繋がっています。だから背後の山からの清らかな水が川となったり、 伏流水となったりしてこの町を流れているのです。
このように水に恵まれた地域でしたので昔から繊維産業が盛んで、特に絹織物が有名でしたが、 戦後になってからはニット産業に変わり全国一の産地となりました。しかし残念ながらそのニット産業も他の繊維産業同様、 海外に生産拠点が移ったことで今ではすっかり衰退してしまっています。
今回ご紹介する金鵄盃(きんしはい)酒造は、ここ村松町にある古くからの蔵です。この蔵の自慢の一つは何と言っても質、量ともに恵まれた水です。 霊峰白山をはじめとする山々からの水が地中に入り、幾層かの土層をくぐり抜け濾過された水が地下水脈となって、それが丁度この蔵の敷地内を流れていているのです。 「天狗の清水」と名づけられているこの水は蔵の地下室から井戸で汲み上げられていて、地下室の入口の上には神棚が祭られています。
ここ金鵄盃酒造の酒質は、淡麗・辛口が主体となっており、それはこの水あればこそ造り出せるこの蔵の持ち味であり一番の強味と言えるでしょう。 弱酸性で極軟水の天狗の清水は井戸で汲み上げられ、ミクロフィルターを通した後タンクへと送られています。夏場でも豊富なこの水こそは間違いなくこの蔵の守り神なのです。
蒸米
阿部昇杜氏
またこのように水がきれいで水量も豊富な地域であり、山の気候の影響を受けやすいこの地では昼と夜との寒暖の差が大きくと、 稲作にとっては好条件がそろっており、酒造好適米の栽培も行われています。特に五百万石は新潟県で多く栽培されているもので、 この蔵では地元産の五百万石が大部分の酒に使われています。
麹室
金鵄盃酒造は地元に密着し、地域の人々に愛される酒造りを続ける蔵元だという印象を受けました。 全国的にも有名な蔵元とは少し違った、控えめながらも、自蔵のこだわりを頑なに守り続ける「金鵄盃酒造」の清酒を、是非一度ご賞味下さい。
(写真提供:金鵄盃酒造株式会社)